「過去形?」




抱き寄せた菜穂の耳元で、囁く。


菜穂の肩が、ピクリと揺れる。




「好きって……過去形なのかよ?」


「たい、が……」


「言えよ。今、菜穂は俺のことどう思ってんの?」




過去なんていらない。


過去の想いなんていらない。


今が欲しい。


今の菜穂の心が欲しい。




「好きだよ、ばかぁ…っ」




堰を切ったように流れ出した言葉と涙。




「バカはどっちだよ…」




力いっぱい抱き締めたら折れそうな華奢な体を、壊れないように、でも強く抱きしめる。




「好きだ、菜穂……」




零れたのは、想いか、涙か。


もしくは――両方か。