梨里さん……あたしの母親。

全く覚えていないけれど、あたしがいなくなって病んでしまった彼女は、あたしのことを本当に愛してくれていたのかもしれない。



「考え、させて下さい……」



ヘンリーさんの顔を直視できず、俯く。

あたしにとって、母親は憎らしくて恐ろしい生き物。

梨里さんはきっとそんな人じゃないって……頭の中では分かっているけれど……。



「ヘンリーさん、すみません。真梨に少し考える時間をやって下さい」

「あ、ああ……そうだね」

「真梨、帰ろう」



いつも以上に優しい蓮の声色に安心して、小さく頷く。



「マリー。いつでも、待ってるから。いつまでも、私たちは君を、愛しているよ」



ヘンリーさんのその声に振り返ることなく、あたしと蓮はスタッフルームを、個展会場を後にした。