ヘンリーさんの瞳に、影が落ちる。



「マリーが生まれて1年後、リリーが交通事故に遭った。それが、すべてを壊してしまった」



ヘンリーさんの瞳に涙が浮かぶ。

この人はずっと、苦しんできたんだ、と思った。



「命に別状はなかったが、意識が戻らなかった。医者にはもう一生目を覚まさないかもしれない、と言われた」



今までずっと支えてくれた梨里さん。支えを失ったこの人の苦しみは、あたしには計り知れない。



「私は絶望した。マリーと一緒に、死のうとすら思って――できなかった。マリーの、無邪気な笑顔を見ていると、この子には生きてほしい、と思ってしまった。だから……水川さんに、マリーのことを頼んだんだ」



それが、あたしを育てたあの女……。これが、あたしの出生の真実……。

苦しくて、涙が浮かぶ。

大好きな、大切な人を失ったヘンリーさんの気持ちを想像したら、この人を責めることができない。

だって、わかるもの。あたしだって、蓮を失ったら……どうなるか、わからない。

一人で立っていられないと思う。死にたいって、思うかもしれない。