「私は画家になりたかった。それを両親に反対され、リリーの両親からも別れてほしいと言われた。だけど、リリーはずっと応援してくれて……」



ヘンリーさんは手で目頭を押さえる。



「私は勝手な男だった。反対を押し切って美大へ行き、フランスにも留学した。リリーはずっと応援し続けてくれたが……だんだんお互い両親とは疎遠になってしまった」



確かに勝手だ。勝手だけど……それでも応援してくれていた梨里さんは、ヘンリーさんとヘンリーさんの絵が本当に好きだったんだろう。



「大学卒業後、画家として活動していたが……正直、鳴かず飛ばずで生活は苦しかった。アルバイトなんかもして、食いつなぎながら……数年後、リリーが子どもを身ごもった」



ヘンリーさんの薄青色の瞳があたしを捉える。



「マリー、君だ」



穏やかな、でも切なげな視線に胸がキュウッと熱くなった。

涙はもう止まっている。気持ちも冷静に戻ってきた。



「マリーが生まれて、私たちは幸せだった。生活は苦しいままだったが、アルバイトを増やして、絵を描く時間を減らして……。マリーが、私とリリーの希望だった。でも……」