「邪魔だっっ、どけっっ!!!!」
隼がそう言って、バイクに乗ったまま食ってかかる。
「や~、でも用があんのよ~~。そこのかわいこちゃんに」
間延びした、甘えたような声。
それを聞いた瞬間、真夏だというのに背筋が冷え、鳥肌が立った。
「はぁ? ケンカ売ってんのか?」
意味わかんねぇ、というように大河が言う。
「ん~、まぁ、ある意味ケンカ売ってる……かなぁ」
男は続ける。
「真梨ちゃん、頂戴? 俺に」
声色でわかる、ニヤニヤした男に、ザワザワと心が落ち着かなくなる。
――怖い。そう、思った。
「真梨、知り合いか?」
「知らない……」
蓮の質問にそう答えれば、小さな声だったのに男は聞こえたみたいで、「えぇ、覚えてないの~?」と言って、ヘルメットをとった。
現れた彼の髪は、銀色だった。
バイクのライトに照らされて、キラキラ光る。ふわふわと風になびく、銀色。
とても目を引く、一度見たら忘れられなくなりそうなものなのに、あたしはなかなか彼のことを思い出せなかった。



