「本当に……申し訳なく思ってる……あなたを、手放したこと」



陽子さんは立ち上がって、頭を下げた。

深く深く、頭を下げた。



「ごめん、なさい」



どのくらい、頭を下げていただろう。

結構長かったと思う。

陽子さんは頭を上げて、前髪をくしゃりと手で崩した。



「許してなんて……虫が良すぎるわよね……」



表情は見えない。

俺は冷たい人間だ。

だって、何も感じない。同情もしない。



「もう気づいてると思うけど……許すとか許さないとか、そういうことじゃないんです。どうでも、良いんです。俺の親は、今の父さんと母さんだけだから」



陽子さんの瞳から涙が溢れる。

俺は、親不孝だろうか。

こんな風に会いたいと言ってくれる実親がいるのに、贅沢だろうか。



「ただ……生みの親が悪い人じゃなさそうで、良かったです」