「中に入ってく?」
「いえ……ちょっと寄ってみただけなので」
「そう……」
先生はそう言って目線を落とす。
「今年も、蓮の花が咲いたのよ」
最後にここに来たのは、蓮華草が見頃の時だったか。
「蓮斗くんは……元気?」
「元気……ですよ」
彼女もできたし、とは言わない。
蓮が自分で言えばいい。
「蓮斗くんは……「蓮のことは、蓮に聞いてください」
「そ、そうよね……ごめんなさいね」
先生はよく、蓮華草は蓮の花だって言っていたっけ……。
先生にとって蓮は、大切な息子の一人だからね。
「あんなことがあったのに、急に来てすみません」
「いいのよ、いつでも来てくれて。何があったの?」
「いえ……」
ここに来れば、気持ちが落ち着くかと思ったんだ。
誰に会うつもりもなかった。
ただ、気持ちが落ち着きさえすればよかったんだけど……。
「先生は……」
会うつもりはなかったのに、気づいたらそう切り出していた。