「なんて顔してんだよ、馬鹿」
その時、頭に置かれた大きな手。
心地いい重さが頭にかかる。
「大河…」
あたしはその手の主の名を呼んだ。
「余計なこと考えてんじゃねぇよ。蓮が好きなんだろ、それなら傍にいろ。離れんな」
「うん…?」
「離れてからじゃ、何もかも遅ぇんだから」
そう言った大河の瞳には、切なさが滲む。
「それでも、蓮の傍にいることに理由が欲しいなら」
大河の瞳を見詰めて、息を呑む。
「俺達のために蓮の隣にいろ。獅龍のためにここにいろ。真梨の居場所はここだ。
真梨は獅龍の姫であって、蓮の姫なんだから」
「……大河…」
たまにはいいこと言うんだね、と言う言葉を飲み込んで。
出て来た言葉は、“ありがとう”だった。
柔らかく笑った大河に、あたしも微笑み返した。