「どうぞ」
颯に続いてその扉の中に入ると、まるで普通の家のようなフローリングと真っ白な壁が広がっている。
「え……?」
まるで一軒家の廊下のようなそれ。
颯はその廊下を少し進むと、一番手前の左手にある引き戸を開けた。
「…………」
そこに広がっていたのは、一般家庭にあるような洗面所。
洗面台があって、脱衣所があって、お風呂場だろう磨りガラスの扉、そして洗濯機。
「颯、ここ……」
「ああ、なんていうか……俺の家?」
旅館自体が颯の家だけれど、旅館の中にあるここが本当の住居なんだろう。
颯は慣れたように洗濯機のふたを開けて、あたしに説明する。
「これが洗剤で、柔軟剤。一応おしゃれ着洗いの洗剤もあるし、適当に使ってよ」
「うん」
「じゃあ、見られたくないものもあるだろうし、外出てるから」
そう言って颯は洗面所から出て行く。
“見られたくないもの”――確かにこの中には下着もあるし、見られたくはない。
本当颯は、気の利く男だ。
とりあえず洗濯は1度で終わらせたい。
仕方ないから、下着と服を一緒に洗ってしまおう。
いつもだったら一緒に洗うことはしないんだけど。



