「家族?」




颯にうん、と頷く。




「菜穂は初めてあたしを認めてくれた人だから。初めてあたし自身と向き合ってくれた人だから。
だから菜穂は、親友みたいなお姉ちゃんみたいな、お母さんみたいな…そんな感じ」




昔のことを思い出して、はにかむ。


あの時菜穂に出会わなかったらあたしはきっと、今この世にいないから。


全てに絶望して、死んでいるだろうから。


菜穂はあたしの、恩人だ。




「…で、菜穂…呼んでいいんだよね?」




本題に戻せば、みんな目を泳がせる。


結局のところ菜穂のこと呼んでほしくないのかもしれない。


しばらく菜穂と会っていなかったから会いたかったあたしは、自分でも気づかないうちに目線が下がっていく。


そんな中、大河が口を開いた。




「呼べば?」


「え…いいの?」




そう言って、顔を上げる。


見えたのは、茫然としている大河以外と、あたしをしっかりと見据えている大河。




「別に…呼べばいいだろ」




大河の台詞に、ゆるゆると口角が上がるのがわかる。


今言ったことは撤回不可だからね、そう言うようにケータイを捜査して電話帳から菜穂を探す。


そして、菜穂に電話を掛けた。




無機質な機械音が鼓膜を刺激する。


4回ほどコールが鳴って、ブツッと音が切れた。




「…もしもし?」


「あ、菜穂?」