花のような、女だった。


「ありがとね、勇樹。
私、すごく嬉しい」

薫はこちらを振り返ると、そう顔をほころばせた。


一面に広がるのは、澄んだ紅色をしたれんげの花。

その紅が風にそよぐたびに、薫の頬もふるふると揺れる。


「勇樹のおかげで、こんなに綺麗なところに来られた。

嬉しいなぁ。
幸せだよ、私」

それはこちらの方だと、勇樹は胸のうちでつぶやく。


薫はいつでも、勇樹のすることなすこと全てを素直に喜んだ。

そうしてこちらに向ける表情に、勇樹がどれだけ救われているかを、多分薫は知らない。


勇樹が何を考えているか分からないと、薫は時々ため息をつく。
それでも捧げてくれる無償の笑顔が、たまらなく愛おしい。


ただそこにあるだけで、いつの間にか頬がゆるむ。

まるで、花のように。


「綺麗だよ」

勇樹が1人言のようにつぶやくと、れんげに見入っていた薫が顔を上げた。

その頬が、薄く紅に染まっている。

れんげの色が映り込んでいるのか、それとも。

「うん。
本当に綺麗だね、勇樹」

「そうじゃなくて」


不思議そうにこちらをうかがう、薫の丸い眼。

漆黒の瞳に映る自分を見極める前に、勇樹は早口に告げる。

「君が」


ああ、つぼみが花開く瞬間はこうなのだろうと、勇樹は思う。

花びらが広がる。
あざやかな色が、勇樹の芯まで照らすようだ。


「勇樹が、そんなこと言ってくれるなんて!

どうしよう、私どうしたらいいのか分からない!」

どうもしなくても、と勇樹は思う。
そこにいてくれればいい。

無償の愛を捧げてくれる、その笑顔があれば。