「……」
しかし、政宗は何も言わない。
ひすいはわざとらしいため息をつく。
「無理は禁物だぜ、政宗さん。あんたはさっきまで毒にうなされてたんだ。身体が軽くなったろうけど、寝床から起きるのは辛いだろ?」
すると、政宗は更に腕の力を強めた。
ひすいは目だけを後ろへやろうとした。
「政宗、さん…?」
「行くな…」
政宗はそう呟いていた。
「俺から、離れるな…」
「………俺は<鷹>に帰るよ。あんたは療養が先決だ。また必ず来るから…、その腕を離してくれ」
ひすいがそう言ったのにもかかわらず、政宗は一層強めた。
「何故……」
政宗の呟きが心なしか震えているように感じる。
あれほど欠点の無いような人をあの毒はここまで変えてしまったのか。
ここまで弱くしてしまったのか。
「何故、愛して欲しいと願う人は俺を避け、離れて……、手の届かないところへ行ってしまうのだ?」
「避ける?」
「俺はただ、愛されたいだけなのに……」
この人は、自分に出会う以前に心を寄せていた人がいたのかもしれない。
しかし、その人は政宗から遠ざかってしまった。
だから、同じような状況にある自分を離したくないと思うのだ。
―――――…だけど何故だろう?
その存在を認めてしまおうとすると胸が苦しくなる。
張り裂けそうなほど、息がしにくい。


