それ以降は静寂な空間が続き、更には夜をもふけようとしていた。
ひすいが一見したところ、これ以上政宗の容態が悪化することがないだろうと見込み、小十郎の部屋の前に置き手紙をしてから陽が昇る前に帰ろうと考えた。
しかしながら、ひすいは字が読めない同様に書くこともできない。
仕方ないので、何とか絵心の欠片もないものを勝手に政宗の硯を拝借して書き付けた。
「あんたが元気になってよかったよ、政宗さん…」
まだ定かではないが、十中八九政宗は善くなっていくだろう。
ひすいは一言寝ている政宗に告げて、障子を開けようとした。
――――――その時だった。
布団を剥ぐ音がしたと思うと次にはひすいの腰に腕を絡められた。
その様子はまさに、幼子が親を引き止めるようなものであった。
政宗はまだ先程まで寝床に入っていたし、熱も下がったばかりだったのでいつも以上に帯びた熱に不覚にも頬が高揚してしまう。
そして、見たところ寝返りさえもしていなかったはずなのに、乱れはだけた胸板が自分自身を包み込んだのかと錯覚してしまう。
「………あんたは一体何度抱きつけば気が済むんだ?」
そんな高揚した感情を押し殺し、いたって冷静である自分をひすいは演出した。
幸いにも、政宗はひすいの後ろから抱きついていたので顔を見られることはなかった。


