「誘惑ねぇ…」
豆吉はオウムのようにそれをただ繰り返して言った。
「あとはさぁ〜、人気のないとこでこうーがばっと?」
「自分で言っておいて最後が疑問詞じゃ意味ないだろ」
「おいおい、はぐらかすなよ、豆吉〜。したかしてないか、はいかいいえのどちらかを言えやっ!」
豆吉は肩をすくめると一言、してない、と呟いた。
「なんだよ、お前。襲う勇気もねぇのかよ!」
「違う…。あの人は幼い頃からそうやって自分の心を傷つけてきた。俺はその傷をまた開き、深くしたくないだけなんだよ」
初めて会ってすがってきたあの日のことを豆吉は一時だって忘れてはいない。
ここまで綺麗なはずなのに、それは容姿だけで瞳は濁っていた。
豆吉はどうしても助けたかった。
目の前の請い願う彼女に手を差し伸べてあげたかった。
それは感情が変わった今も変わらない。
あの人を守りたい。
それだから、一度思い浮かべていた独立も源九郎の死で諦めたし、側近の役も名乗り出た。
全ては想い続ける『女』を守るため…―――――――