「知らねえよ、そんなこと…」
「己の身であるにも関わらずか?」
「そんなの、どうでもいいんだよ。俺は、源九郎を殺した仇ができればそれで十分なんだ!」
ひすいは政宗の襟をきつく握った。
「あんたが殺したんなら俺はあんたを殺すまでだ。俺が愛しいなら、黙って殺されろよ!」
「それは出来ぬ。俺は天下を取らねばならないからな…」
政宗が寂しそうに呟くのはひすいに拒まれたからなのか、気持ちの揺れがひすいの拘束を若干緩めた。
しかし、同様にひすいも少なからず乱れていた。
その緩んでできた彼我の距離に今度はひすいが政宗の胸に顔を埋めた。
「頼むよ…、俺に殺させてくれ」
ひすいが握り、乱れた政宗の襟から顕になった肌に生暖かい液体がつたう。
「ひすい…」
政宗はその彼女の涙にその名を呼ぶことしか出来なかった。
啜り泣くひすいがいたたまれなくなり、政宗は彼女の頭を優しくまるで毛並みを揃えてやるかのように撫でた。
時折、『源九郎』とそれから漏れる言葉は彼女がどれだけあの男を尊敬し、また慕っていたのかを示していた。


