「女だと?愚弄者め。俺が愛しているのはただひとりの女だけだ。そいつ以外をこの部屋に入れたりはせぬぞ」
「………左様ですか」
『ただひとり』を聞いて、ある女の泣き顔が小十郎の脳裏に浮かぶ。
「もう下がれ。俺は寝る」
いつまでも長居する小十郎に厭き厭きしているのか、政宗は小十郎に背を向けて寝入ってしまった。
「はい。夜分遅くに失礼しました。おやすみなさいませ、政宗様」
返事はない。
それでも小十郎はもう一度頭を下げて、音がしないように襖をそっと閉めた。
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足音が完全に聞こえなくなった。
「……出てきてよいぞ、ひすい」
そう言葉をかけてやると、ひすいは壁に掛けてあった掛け軸の裏の穴から出てきた。
「城主って、ここまで準備がいいんだな…」
ひすいは政宗しか知らない緊急避難時通路に妙に関心していた。
「こんなもの使うが恥と思うておったが…なるほど、役に立ったな」
政宗は小さく笑った。


