この人に昨日起こった出来事を全て話してしまえばどんなに楽になるだろうか。
ひすいは小十郎の優しさに入り込んで、もう一度彼の胸の中に入った。
「――――…ひとつだけ、お願いがある」
「はい、何ですか?」
心を清めるような声がひすいの頭上から聞こえる。
顔を小十郎の胸に埋め、着物をぎゅっと握る。
「もう一度だけ、……もう一度だけ、抱きしめてくれないか?」
「……」
小十郎はしばらく黙っていたが、やがてひすいを包み込む。
それは先程の抱擁よりずっと強かった。
小十郎の熱が肌から伝わってくる。
そして、小十郎の心音が聞こえてくる。
耳をすましてそれを確認しようとしたとき、―――――
「―――――小十郎っ!」
急に呼びかけられたのではっとして、二人は離れた。
声のする方を見ると、憤怒の形相をした政宗が梵天丸を抱えてこちらを睨んでいた。
「政宗様、いつお帰りに?」
小十郎は何事もなかったように、政宗へ笑顔を向けた。
その態度が気に入らなかったらしく、政宗は乱暴に梵天丸を降ろすとそのまま早足でやってきた。
梵天丸はいまだかつて見ぬ政宗に畏れをなして、その場で立ちすくんでいた。


