ひすいはもがき、必死に男の胸を押し返そうとしたが、男はひすいのうなじと腰に腕をまわしているためびくともしない。
口付けは、人にとって意味のある行為であることは知っている。
だが、それは強制的に為されてはならないもののはずだ。
怒りと悲しみがひすいの心で交ざり合い、それは涙となって瞳から出てきた。
――――――嫌。いやっ…!
すると男は唇から若干離し、息を吐いた。
「………驚いた。山賊の女でも、涙がでるんだね。やっぱり所詮、君も立派な女子(おなご)というわけか」
試近距離で話しかけられたが、ひすいは思考出来ずに話すこともできなかった。
「ふふ…――――」
男が微かに笑うと、今度はひすいの首筋に顔を埋め、そのまま唇を這わせた。
「あ、くぅ………」
情けない声を出してたまるかという、ひすいの抵抗に男は興が覚めたのか、そっと離した。
そして数歩退く。
ひすいはガクガクと足が震え、その場にへたりこんでしまうが、この男を睨む鋭い眼は衰えさせなかった。
「君は我慢強いんだね。………君を鳴かせてみたくなった」
ひすいを見下しているのがまるで自分の方が力を有していると言わんばかりの顔であった。
「僕は<獅子>の頭領、悠(ゆう)。今度こそ君を迎えにくるから」
そう言い残して、踵を返していった。


