ひすいの頬を何かが掠めた。
「?!」
血がつぅと流れ落ちる。
「相応しくないな。君に担がれるほど、この男は価値があるのかい?」
気配はなかったはずなのに、声が聞こえる。
ひすいは慌てて周りを見回した。
「ふふふ、ここだよ。ここ…」
そうして初めて相手の気配を察知できた。
ひすいの数尺離れた後ろに、若い男がただ立っていた。
「何者だ、お前は…」
「僕?僕は向こうの山の麓に住んでいるんだ」
男が指差した方向は、あの山賊が住まう場所…―――――
「てめぇ…、<獅子>の者か」
「おや?意外だな、こんなところまで僕たちの名前が知れ渡られているなんて。……そうさ、僕はその<獅子>の頭領さ」
―――――<獅子>
このあたりの山賊ならば、その名を聞いたことがないはずがない。
残虐で、力だけで全てを支配しようとしている。
「そんな<獅子>の頭領さんがこんなところに何の用かい?」
ひすいが突き放すように言い放つと、<獅子>の頭領はあたかも影のないような顔でにっこりと笑う。
そして、一歩ずつひすいとの距離を縮めていった。
ひすいは担いだ男を庇いながら警戒を続ける。


