物心がついた梵天丸がひすいに会うのは初めてである。
彼でさえも一目見て、顔を完璧に覚えることは難しい。
浮かぶのは、まるで霧にでもかかったような母の微笑む姿である。
―――――悔しい。
この状況でこの言葉は相応しいのかは判断しかねないが、少なからずある。
父である政宗に負けたような、置いていかれているような、孤独な感覚が梵天丸を包み込んでいた。
いつの間にか俯いてしまっていたらしい。
頭にはがしがしと強引に―――しかし温かみのあるように撫でる手があった。
頭皮からでもわかる、この人の毎日の鍛練の賜物――――まめだらけの手だ。
それは、梵天丸が慕う政宗の手であった。
「近いうちに、ひすいは来るであろう。そこまで気に病む必要はないぞ、梵天丸」
「父、さま………」
見上げた瞳に写るのは、後ろから陽の差した政宗の姿。
―――――父には一生涯、適わないかもしれない。
自分を見つめる瞳がどことなく、母を見るその隻眼と似ているのはただの思い違いだろうか?
「父様、稽古をいたしましょう!」
「稽古か?………また、梵天丸は張り切っておるな」
クスクスと可笑しそうに笑う声が聞こえる。


