梵天丸はひとりで政宗のもとへ帰っていった。
隣には、小十郎もいた。
政宗は梵天丸だけしかいないことに方眉をあげた。
「梵天丸、ひすいはどうした?」
「はい。母様は先程殿方が来られまして、共にに帰ってゆかれました」
「男、だと……?」
あからさまに政宗の顔が不機嫌になっていくのがわかった。
その理由がどういうわけなのか、梵天丸は子供ながらに悟ることができた。
梵天丸自身、愛する意味をまだ知ることはない。
しかし、政宗が母であるひすいに抱いている感情はそれとなく理解しているつもりである。
決して自分が入り込める感情ではないとも理解していた。
だから、不機嫌になった政宗を見て梵天丸は心の中で焦った。
―――――…言葉が足りなかった。
母の知り合いの男と、この政宗は別の意味で全く違うのだ。
「―――――しかし母様は、また来て下さるそうです」
「……そうか」
政宗は少し考えた後、小さく笑った。
母の顔を思い浮かべて、そのように笑ったのか。
梵天丸は羨ましく思えた。


