「<獅子>が…―――――!」
聞きたくなかった言葉だった。
ひすいは額から頬へと一滴の汗を流す。
とうとう[やつら]も動き始めたということだろうか。
「―――――…くそっ。悪いな、梵天丸。俺は行かなきゃならねぇとこができた。政宗さんにはお前からよろしく言っておいてくれ」
五つの齢(よわい)にして、あれだけの言葉を知っているのだ。これぐらいの用件なら難なく理解できるはずだ。
「わかりました…」
思惑通り、梵天丸は素直に頷いた。
「しかし、母様…」
梵天丸は一歩踏み出そうとしていたひすいの短い裾をぎゅっと握った。
先を進むのに抵抗を多少感じたひすいは振り返り、梵天丸を覗き込んだ。
「どうした、梵天丸?」
「また、ここへいらしてくれますか…?」
不安に押しつぶされてしまいそうなほどか細い声で、ひすいの肯定を待っていた。
「………当たり前だ。俺は、またお前に会いに来るよ。それまで、待っててくれるか?」
ひすいの優しく降り注ぐような声に梵天丸は次第に元気を取り戻してゆく。
「母様っ!待っております!」
「ああ!」
梵天丸が元気になったことで彼女にも士気が上がり、これから起こること全てを越えられる気がした。


