「あの人が待っているのは俺じゃねぇんだ…。あんたなんだ…──」
豆吉の胸ぐらを掴む力が緩くなった。
「ひすいが…────」
政宗の呟いた『ひすい』…────
──────その言葉も豆吉は気に入らなかった。
それが原動力となり、また掴む力を強める。
「けど、ひとつ言っておく。その名前はあの人のものじゃない!」
「なんだと…?」
政宗は豆吉を睨み付けた。
その迫力に少し気圧されながらも豆吉は続けた。
「あんたがくれた名らしいな…。けどな、あの人は大将から貰う筈だったんだ!俺と同じように……」
「源九郎、が…────」
「だから大将が名を与えるまで、あの人に名はねぇんだっ!」
赤子を米沢城に置いてきたと言ったあの日、彼女が『ひすい』と独り言のように呟いている姿を豆吉は見ていた。
微笑んで指先を見つめる彼女にいつもの男気は無かった。
「もう…止めてくれよ」
豆吉が掴む胸ぐらは乱れ、政宗の鍛えた胸筋が現れる。
豆吉はそれを見て力を無くしたのか、ズルリと崩れ落ちた。


