そして、その耳許で優しく囁いた。
「だが俺の左眼はいつも天下をみているわけではないぞ?」
息がかかるほどの近距離で、政宗の吐息がひすいの耳を掠める。
「…………なんだって?」
──────この男の願望は天下を統べることだったのではないのか…?
甘い吐息に乗せられて届いた声に小さな疑問が浮かぶ。
信じられない、といったような目付きでひすいが眺めていると、政宗は目を細めて微笑んだ。
「…お前を愛するようになった日から、俺の眼は天下だけのものでは無くなったのだ」
「え…」
「お前を見るために、俺の隻眼はある…。そう…、愛しいお前をな」
「そ、そんなこと言ったら……は、恥ずかしいだろっ!」
「ふっ…。何を今更言うか。以前にもあまた口説いたはずだが?」
政宗はひすいの鼻をちょこんとつまむ。
完全に子供扱いされているが、内心ひすいは嬉しかった。
─────お前を見るために、俺の隻眼はある…、か………
政宗が悲しみにふける姿はもう見たくない。
母親のことで思いつめていた心を自分が支えているなら、少しは彼の役に立っているのだろう。
愛しい彼を守るために、自分は出来る限りの力をそして愛を彼に注ごうとひすいは考えるのであった。