「あれは…―――――、ひすいさんと梵天丸様ですよね」
「そうだ。『これ』とは、二人の会話よ」
「会話…?」
小十郎は政宗を見つめた。
陽に当たり、眩しそうに目を霞めているその姿は、懐かしそうな、それでいて寂しげな表情であった。
「政宗、様…?」
「―――――ひすいはな、本当にあの男子を愛しておる。己(おの)が子でないにも関わらず、それは真(まこと)よ。俺はいつだってあの男子が羨ましくてかなわん」
日射から顔をそらし、自らをあざけ笑うように吐き捨てた。
「だからだ。俺は男子に“梵天丸”を与えた。ひすいは自然とそれと呼ぶだろう?……俺はそれで懐かしむのさ」
政宗は自嘲気味に笑った。
小十郎はそんな政宗の顔が見ていられず、思わず顔を逸らしてしまった。
政宗の傷を真っ向から見られない自分の不甲斐なさに怒りを覚え、膝の上の拳では袴を握り締める。
政宗は右眼の眼帯にそっと触れた。
「――――俺も、あのように愛されればもしくは………」
「政宗様…」
―――――ああ、そうか。
この方は愛されたいのだ。
母君から受けなかった分の愛を誰かひとりの女からもらいたいのだ。
それは、到底城下の娘たちでは為しえないのだろう。


