「目が覚めたか、ひすい」
「ああ。色々世話になったな…」
「お前を世話するのを苦渋だと思ったことはない。お前が生きていてくれれば、俺はそれだけで良いのだ」
政宗はそう言って、盃に酒を注ぐ。
「…………ひすい。お前は何かあってここに来たのではないのか?」
「えっ」
まさか早くもこの質問をされるとは想定外で、ひすいはいくつか考えた理由を頭に思い浮かべた。
一瞬本当のことを言おうかとも考えたが、やはり恥ずかしい気持ちが勝(まさ)った。
「そ、外の空気が吸いたくてよ……」
政宗は真顔でまっすぐとひすいを見つめてきた。
真意を探られているようで、ひすいは目を逸らしてしまう。
「………………そうか」
悲しそうな声が聞こえた。
瞬間、それに呼応したようにひすいは無意識に言葉を紡いだ。
「─────嘘だよ。…本当はあんたに会いたかったんだ」
何がそうさせたのか、…やはり、政宗を第一に考えてのことだったのかもしれない。
政宗はもちろん目を見開いてこちらを見ている。
そしてひすい自身も驚いて、政宗と同様な顔をしていた。
全く言うつもりはなかった。
しかし、悲しみにふけるような声がひすいの心を揺れ動かした。
彼を悲しくさせてはいけないと思ったのと同時に、自分の本音を述べなければと思ったのだ。
さもなけば、きっと取り返しのつかないことになると無意識な感情が彼女を動かしたのである。


