「―――――それにしても」
「…何だ」
「今更ながらにお聞きしますが、何故あの男子に“梵天丸”と名付けたのです?」
小十郎が真に問おうとしている意図が分かり、政宗は鼻で笑った。
「悪いか?」
とんでもございません、と恐縮するような声が直ぐさま耳に入る。
そして小十郎はしかし、と言葉を続けた。
「悪いも何も、その名は貴方様の幼名ではございませんか」
「ああ、そうだ」
元服以前の政宗は『梵天丸』と名乗っていた。
ちなみに、この『政宗』の名は先祖から頂いたものでもある。
「貴方様は、一体何をお考えに…」
「そうだな、強いて言うなれば『これ』を待っていた」
「これ、とな?」
「耳をすましてみろ。庭から声が聞こえるはずぞ」
小十郎は目を閉じて、神経を耳だけに集中させた。
僅かに聞こえてくる、女と童の声がそこにあった。


