「母様…!」
梵天丸の顔がぱあっと明るくなった。
「母様に褒めてもらい、僕は幸せ者です」
「ああ、ありがとな。おいしかったぜ」
ひすいは初めて食べた握り飯二つをたいらげた。
腹が満たされたことで、また眠気が襲われて来たような気がした。
しかし、こんなにも嬉しそうな梵天丸を置いて夢の中に入ってしまうのはどうも気に食わなくて、ひすいは重い瞼を必死に開けていた。
瞼が下がっては首を振って奮い起こす、そんな彼女の姿を見た小十郎は穏やかに微笑んで、そっと梵天丸の肩に触れた。
「今は名残惜しいと思いますが、怪我人には休養が一番です。ひすいさんが一日でも早く復帰なさるように、休ませてあげましょうか、梵天丸様」
「………………はい。そうですね、小十郎」
急に夢から現実へと引き戻されたかのように梵天丸の顔が曇る。
しかし彼自身もそれはよく了解しているようで、素直に頷くことができた。
お大事に、と声をかけて二人は静かにその場を離れた。


