「ふふっ。それは私もお手伝いしましたからね」
声がしたのでふと見上げると、そこにはいつもの如く顎に手をあてた小十郎が微笑みながら立っていた。
「やはり梵天丸様のお手では小さな握り飯になると思いましたので」
「む…」
小十郎が穏やかにそう告げると、梵天丸は口を尖らせて唸った。
─────梵天丸も、たまにはこういった幼子らしい顔もするんだな。
母であるひすいの前では常に聡明な言葉遣いで齢五つとは思えない言動をしていたが、こういった実に童のような顔もできるのだと、ひすいは内心ほっとしていた。
「ですが、母様っ──!」
すると梵天丸は真面目な目つきでひすいに顔を近づけた。
ひすいは驚いて、目を丸くする。
「この握り飯の梅は僕が入れましたよ!形を整えたのは小十郎だとしても、母様がお食べになったその梅は僕が入れたものでございます!」
真剣な面持ちでひすいを見つめる梵天丸の瞳には薄ら涙が浮かんでいた。
どうしても、自分が作ったものを母に食べてもらいたかったのだ。
その意を汲んだひすいはふっと笑い、梵天丸を撫でた。
「わかってるさ。お前が作ってくれた一生懸命の味がするぜ」


