奥州の山賊






ひすいは不思議に思って、声をかけてみることにした。




「梵天丸、どうした?入ってこねぇのか?」





「は、はいぃぃっ!」





呆けていたのか、ひすいに声をかけられてびくんと肩を震わせた。



そしてぎこちなく立ち上がり、左右の足と手を同時に動かしながらやってきた。






「ど、どうぞ!お食べ下さいませ、か…母様!」







呂律がまわらない梵天丸が差し出したのは、見事に形作られた握り飯であった。






─────すげぇ。これが握り飯というものか…。






ひすいは驚嘆する。





何故ならひすいはこれまで『白米』はおろか、米を目にしたことはなかったのだ。





山賊なので村を襲った際に盗めばよかったのだが、この<鷹>は特異な山賊集団で、村人の食料を奪うようなことは一切しなかった。



それは源九郎時代からの掟であり、ひすいはそれを重宝していたので、どんなことがあろうとも奪うのは宝だけ。




その宝を売って<鷹>の生計を立ててきた。







だから初め、梵天丸の言う『握り飯』なるものがどんなものなのか全く解せなかった。



だが、彼が一番得意なものならば、それを作ってもらうのがいいだろうと考えたのである。