梵天丸のはしゃぐ音が消えると、そこには沈黙が訪れた。
ひすいはその沈黙に堪えられなかったが、思い浮かぶ話題も見当たらないので掛け布団に視線を向けて俯いていた。
すると、政宗はひすいのそばまで赴き、その場にすとんと胡坐をかいた。
「あれの握り飯は絶品ぞ。きっとお前も気に入るに違いない」
「そうか…」
「うむ。───…しかし、お前の生命力には驚いたな。梵天丸を立ち入らせないほど危うい状態だったはずなのに、よくぞここまで…」
「………………違うんだ」
ひすいはぼそっと呟く。
それを政宗が聞き漏らすはずもなく、眉間に皺を寄せた。
「………何?」
─────違う。
自分の生命力のお陰ではない。
これは、あの男の…────
途端に涙が溢れてきた。
生ぬるい液体と共に重ねられた人の唇の感覚がまだ口まわりに残っている。
舐めまわすようにされた口付けをひすいは悲しみに近い怒りを覚えていた。
「何故泣く?泣いてはその訳が分からぬだろう」
政宗はそっと身を寄せて、その涙を優しく拭い取った。
「何でだろうな…?俺にも、わからねぇんだ」
「分からぬ…だと?」
ひすいはすがるような瞳を政宗に向けてこくりと頷いた。


