「梵天丸、母にこの庭を案内してやれ。俺は縁側で座っておるからな、何かあったら叫ぶかここまで来い」
「はい、父様!いって参ります」
「おう、気をつけてな」
ひすいの手を引っ張り、振り向きながら梵天丸は手を振っていた。
政宗も顔の前で小さく振った。
二人の影が見えなくなったところで、政宗は縁側に腰をおろす。
ほのかに照らす陽を顔に受け、瞼を閉じた。
その脳裏に浮かぶのは三つ…―――――
ひとつ、
――――…おいでなさい、梵天丸。
美しく、煌びやかな女が笑いかけている。
ひとつ、
――――――…どうか、どうか死なないで!生きて…!
必死に手を握り、今にも泣きそうな声を出していた朧(おぼろ)な女の姿。
ひとつ、
―――――…汚らわしい。お前はもう私(わたくし)の子ではありません。
伸ばした手を払われ、まるで人ではない、まがい物をみるかのような醜い女の姿…。


