小さいながらも燐とした声でもの申すのは紛れもない、あの赤子である。



「お前の母よ。会いたかったろう」



「母様?」



政宗の袖にしっかり両手を握りしめ、チラチラと男子はひすいを眺め始めた。



「…母様?」


「…」


「………母様?」



「…」



「………母、さま?」



何度も呼ばれているのは、ただこの男子がひすいと[母]を一致させようとしていたのではなく、ひすいに[母]であるか否かと問うていいたのだ。



「……………かあ、さま?」




ひすいが一向に返事をしないために、どんどんと男子は自信を無くしていく。



ようやくその行動に気付いたひすいは言葉を並べようと模索して焦った。


「えっと……」



―――――名?

俺はこの男子の名を知らねぇじゃねえか。




ここでこの最大重要事項に気付いたのであった。


呼びたいにも呼べない。



「――――梵天丸だ」



政宗が口にした言葉がすぐに彼の名だとわかった。


当の彼は父に呼ばれたのかと思い、ふと上を見上げた。






「おいで、梵天丸…」



ひすいは遠慮がちに両手を広げた。



「母様…!」



すると、はっとまたひすいの方を振り返る。




そしてその胸の中へ梵天丸は駆け出し、飛びついていった。




「会いたかったです、母様…」



梵天丸の頬をすりつけてくる感覚が意外にも心地がよい。


この温もりを離したくない。


不覚にも、そう思ってしまった。