「悠…────」
赤い髪の毛の男が悠の傍にけだるそうにやってきて声を掛けた。
「何だい?ツバメ───」
ツバメと呼ばれた男は、その特異な髪の毛を掻き上げて言った。
「お前に客だとよ。………会うか?」
「ああ。『彼』がやって来たのだね」
「彼…?」
ツバメが問うと、悠はにっこり笑った。
「そう…、『彼』さ。とにかくここに連れてきてよ」
自分でいけよ、なんてツバメはぶつぶつ呟いていたが、悠は何も言わずに足を組んだ。
──── 一歩たりともここを動かないらしい。
ツバメは大げさな舌打ちを鳴らし、大股でその客が待っているであろうところに向かった。
暫くすると、足音が先の暗がりから近くなってきた。
闇に慣れた肉眼で見えるか見えないかの瀬戸際のところで、客は立ち止まった。
ちなみに、ツバメはその後ろに控えているのがわかった。
何しろ、頭髪が赤色というのは目立つのだ。
そして、彼から放つ紛れもない殺気が伺える。
だが、それにひとつも動じないこの『彼』はやはり自分が見込んだ男であると、悠はにやりと笑った。