しかし、ひすいが実際あの赤子と会うのはまた随分と時が過ぎてからである。
月日は五年を費やした。
当時、赤子を抱いた姿が幼かったひすいはより成長した。
毎日鍛練を積んでいるがゆえ、細身ながらも多少の筋肉はついたが、それでいて女性特有の丸み帯びた線のつくりも備わっていた。
「姉貴、本当に行くんですかい」
木の幹に立ち、風を感じていたひすいの横で豆吉が呟いた。
「ああ、五年も過ぎちまった。これ以上顔を出さない訳にもいかねぇだろ」
「けど…」
豆吉は納得していないみたいだ。
これは以前からそうだが、あの赤子と伊達政宗が絡んでくると、豆吉はそうそう容易く首を縦には振らなかった。
「お前が心配なのはわかるさ。だけどよ、――――ほら、五年前も言ったろ?俺は必ず<鷹>に帰ってくる」
「そうじゃねぇ。そうじゃねぇんだよ、姉貴」
豆吉は瞳をギュッと瞑る。
「…なんだよ、他に何があんだよ」
すると、意を決したのか、豆吉がひすいの方へ髪をなびかせながら向いた。
「俺はあんたが…――――――!」
しかし、最後まで言いきれず、そのまま口を告ぐんでしまった。
そんな中途半端な豆吉の態度に半分苛つきながら、ひすいは腕組みをして豆吉を睨んだ。
「なんだよ、途中まで言い掛けといて…」
豆吉は最後まで言うことができないのが余程辛いのか、もどかしいのか、瞳に涙を含ませているのが垣間見えた。
「……いや、なんでもないっす」
そして、幹から下りてしまった。
「姉貴、いってらっしゃい。気をつけてな」
その言葉を残して、豆吉は森の中に消えてしまった。