政宗は声を荒げた。
余程家康が嫌いなのだろうか、その声色には怒りに似たものも感じとれた。
「許さん、って…。おいおい、俺ぁいつからあんたの言いなりになったんだよ」
「…お前を、あんな狸に取られとうないのだ!あやつに取られてしまうなら、いっそのことお前を攫ってどこか遠くへ行ってしまった方がましだ…!」
「…………」
「ひすい、共に行こう。お前とならば、俺は何も――――――」
パアァァンっ!
乾いた音が森の中で響きわたたった。
「………………ひ、すい?」
叩かれた本人――つまり政宗なのだが、彼は左の頬を押さえながら信じられないといった顔でひすいを見ていた。
「馬鹿言ってんじゃねぇよっ!」
「……!」
「俺はあんたの――――この奥州のために三河に行くんだっ!何故だかわかるか、政宗さんよ…」
未だに目を瞬かせている政宗に呆れたようにため息をついた。
「…言ったろ?あんたこそ天下人になるべきなんだって…。俺はあんたに天下を取ってほしいのさ」
「俺の、ためか…」
「そうさ。そのために情報収集してくるのさ。…………徳川のおっさんには悪いが、あの人の女になるつもりはないね」
腕組みをし、ひすいが鼻で笑うと、政宗はそれまで自分の左頬を押さえていた手を彼女の肩にそっと乗せた。


