「――――――あれは、小十郎の許婚ぞ…」






不意に横から声がした。




そちらへ視線を向けてみると、ひすいの来た道からは死角になる位置で幹に寄りかかる政宗の姿があった。






「何でそれを知って…?!」





「お前のことなら申さずともわかる」





そっと政宗はひすいの肩を引き寄せる。


ひすいはされるがままに、政宗の胸の中に収まった。





「泣け。俺の胸を貸してやる」





いつもとは違う政宗の優しさが体温に現れているのか、その温もりがひすいを安心へと導いた。





その不安を象徴するかのように、彼女は政宗の前襟をぎゅっと握る。





それが合図になったのか、政宗は衣の擦れる音をさせながら腕をひすいの腰に回した。






「あの女は橋本という商人の娘で、小雪という」




「小雪、さん…」






「前々から仲が良くてな、契りを交わしたと聞いておった…」






「…………」







ひすいの握る手が若干強くなる。




政宗は彼女の頭に唇を添えて撫でた。







「すまぬ。…………お前が小十郎に好意を寄せているとは知っていた。もっと前にあのことを伝えておればお前は――――」



「いいよ、政宗さん…」









ひすいは一度目を閉じてから、そっと瞼を持ち上げ、上目遣いに政宗を見上げた。