「申し訳ありません。近頃、忙しくて祝言どころではないのです…」
政宗が毒を盛られた、とは言えない。
城内でも知る者は一握りで、他言無用だということになっている。
それは親しい間柄の小雪にでさえ、小十郎の口からは言えないのだ。
「そうですか…」
小雪はしゅんと下を向く。
「………お父様には近いうちに必ず、と申し付けください」
小十郎は乗せていた手を頭から頬へと移動させる。
申し訳なさそうに眉をハの字に曲げて彼女を見据えた。
そんな姿に高揚させた小雪は目をパチパチと瞬きさせた。
「か、景綱…さま――」
「私は、貴女を心からお慕い申し上げております。安心なさってください」
動揺に満ちた彼女の言葉を遮るように小十郎は優しく、深く、囁いた。
そんな艶のある声色にまたも小雪は口をパクパクさせた。
そんな彼女の表情の一転に小十郎はふっと笑う。
「少し長くなると思いますが、待っていてください。必ず、迎えに上がります」
「はい。待っております…、いつまでも。いつまでも、貴方を」
健気に言う小雪に小十郎は目を細めて笑いかけ、そのまま彼女の白雪のような額に唇をあてた。
「では、また…」
そう呟いて、彼は足早に城下の中に消えてしまうのだった。