いつものように塀を登り、小十郎の部屋の前までたどり着くことができた。
―――――我ながら、上出来である。
と、ひすいは自負した。
何せ、ここに着くまでに何度もこの城の者に出くわそうになったのだ。
そのつど、ひすいは天井に張りついたり、柱の陰に身を潜めたりした。
――――どこぞの忍みたいだ…
ひすいは口を膨らませて必死に笑うのを抑えた。
一、二度『忍』という者を源九郎から聞いたことがあるが、それはまさに奇想天外な術士の類だ。
実際、ひすいはこの存在を見ない限りは認めないと心に誓っている。
―――――さて、
小十郎の部屋からは物音ひとつさえ聞こえないが、ひすいは息を潜めて囁いた。
「…………小十郎さん、持って来たぜ」
畳を踏む音が聞こえたと思うと襖がゆっくりと開き、中から小十郎の手が手招きしていた。
それは、『入ってきて下さい』ともとれて、ひすいは黙って入ることにした。


