悠は、自分の母を殺した。






――――正確に言うなれば、正当防衛として殺してしまった。








今まで育ててきてくれた女が上目を向き、口からだらしないほどよだれを垂らしていたとき、悠は不思議と悲しくはなかった。






それは、『育てた』といったことは何一つ、この女がしなかっただからだろう。






――――では何故『育ててくれた』と言ったのか。






彼女は何もしなかったが、その代わり、悠がそばにいても何も言わなかった。




『消えろ』とも『鬱陶しい』とも言わなかった。



それは悠にとっての何処からかの安心であり、希望の光であった。










だからこのまま何もなく時が過ぎるのだろうと思っていた。






しかし―――――







母は悠を殺そうとした。










理由は、狂気の快楽を得るためだと言われた。





母は、その狂気を我が子を殺すこととして重ねた。







悠は今まで信じてみてしまっていた自分に遺憾を覚えた。






――――馬鹿みたいだ。







何の希望を見出だそうとしていたのか。





この女から何を得ようとしていたのか。








「馬鹿みたいだ…」









悠は襲ってきた女を首を締めあげて殺した。