二人は特に急ぐ用もないので、帰路をゆっくりと歩いていた。
ひすいが未知の感情に気付いたときから口数が少なくなったことを心配して、男は頻りに横目で顔色を窺っているのがわかるのだが、ひすいはあえて気付かない振りをしていた。
それでもやはり気になるのか、男は口を開いた。
「姉貴…」
「あ?」
「…………」
この状況で彼女を呼んだことに男は後悔した。
何故なら、この男は考えなしに呟いてしまったからだ。
「んだよ、呼んどいて『何もありません』なんて無いよな?」
腕組みをして、笑っている彼女が恐ろしかった。
何か言わなければ、さもないと…―――――
そう思って次の言葉を紡ぎかけた時だった―――…
「また君は、誰か男といるんだね」
清楚そうな整った声に真横にいた彼女の身体が停止した。
不思議に思った男は顔をのぞかせる。
その顔は、『恐怖』そのものであった。
一度も見たことのない、誰かに怯えるその姿に声をかけようとした―――…
―――刹那
自分の身体を空を浮いていた。
そして、気付いたときには太い幹に腹を打ちつけていて、そこから激しい痛みが沸き上がってきた。
「おいっ…!平気か…っ!?」
横になった景色にぼんやりと遠くに、さっきまで隣にいたはずの彼女が見えた。


