しかし彼女の姿はなく、そこには寂しく草々が風に吹かれていた。
「母様……っ!」
「ひすいめっ!言うだけ言いよって、逃げたなっ!」
焦っているのか、二人は手に汗をかいていた。
準備が整った小十郎は前進しようと足を出す。
「ひすいさんが悪いわけではありません。貴方たちが私を騙そうとするからです」
二人は必死に地獄行きに抵抗するが、『鬼』と呼ばれる者にかなうはずがない。
「父様っ!嫌です!」
「無理を言うな、梵天丸。俺とて嫌だ」
「本当に人参を食べるのでしょうか…?」
「こやつは有言実行なる者よ。きっと、食わされるだろうな…」
「さあ、ぐずぐずせずに行きますよ」
なお力強く引っ張る小十郎に最後の抵抗なのか、体重の重心を後ろへもっていった爪痕―――――つまり、彼らの足が残した細い線と太い線とが二つずつ並んでいたのだった。
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「悪気はねぇんだ、許してくれ…」
逃げてきたひすいは走りざまにそう呟いた。


