ひすいは松から飛び降り、梵天丸の前に降り立ってから彼の視線に合わせるようにしゃがんだ。
そして内密な話をする時の如く手を口の横へあてた。
「なあ、梵天丸…」
梵天丸は瞬きを二度と繰り返す。
その大きな、そして曇りなき瞳に吸い込まれそうになりながらもひすいは続けた。
「…小十郎さんって、どんな人?」
そう訊いた途端、梵天丸の肩が微かに震えるのがわかった。
「…梵天丸?」
ひすいは心配になって彼の顔を覗き込んだ。
震えた唇で、梵天丸は微かに呟いた。
「小十郎は、恐ろしい人です……」
「お、恐ろしい?」
こくり、と慎重に頷く梵天丸に何処か緊張感を漂わせている。
ひすいは喉唾を鳴らす。
「…………小十郎は、笑顔で僕に人参を食べさせるのです」
「………………へ?」
「考えるだけでも恐ろしいっ!小十郎は僕が人参を皿の端に寄せていると『おや、残っていますよ』と呟いて是が非でも僕の口にいれるのですっ!」
梵天丸は木刀を落とし、頭を抱えてうめき出した。
それほど小十郎の恐怖心は強いのかと驚かされるひすい。


