奥州の山賊






「父様ですか?……父様は今城下を視察に向われておりますがゆえ、不在なのですが―――――」




「ああ、それならさっき――――」




と、言いかけて、ひすいは咄嗟に口に手をあてた。





――――馬鹿野郎っ、俺!そんなことを口走ったら俺が変態になるじゃねぇかっ!






「……?母様、今何と仰いました?」




「いやいやいや、何でもねぇよ。ただの空耳じゃね?」




「空耳………」





梵天丸は確かに聞こえたはずなのだが、といった顔で首をかしげ、それに対してひすいは誤魔化しの苦笑いを向けた。






―――――俺が二人の後を尾行していたなんて知れたら、梵天丸は俺を疑うもんな…。






後ろめたいことは皆無なのだが、変な誤解を生じさせるのを防ぐためにとった行動らしい。





実際、ひすい自身も何故尾行などをしているのかはよくわかっていない。





日が昇ると足が勝手に動いていってしまうかのように、いつの間にか二人の後を追っているようなものなのである。







そして、見つめる先も何故小十郎なのかわからない。





彼を見ていると、心の臓が騒ぎ始める。



だからといって、ずっと見ていないのも不安な気持ちになる。






このもどかしい気持ちが今のひすいの中にあるのだ。