「なあ、小十郎……」
暖かな陽だまりの中、公務の一環で城下を政宗と小十郎は監査していた。
「はい、何用でございましょう?」
斜め後ろで歩いていた小十郎は尋ね返す。
政宗は周囲に視線を配りながら頬を掻いた。
「あれだ…、あれ。お前はどう思う?」
『あれ』と言われて小十郎にも思うところがあるのか、クスクスと笑い始めた。
それが何とも政宗自身は気に入らず、眉を寄せて振り返って言った。
「貴様、何故(なにゆえ)可笑しいのだ」
怒りを鎮めたような低い声にまったく恐れをなしていない小十郎は更に笑みを深めた。
「可愛らしいですね。―――…何が目的かは存じ上げませんが、あのように見つめられるとこちらが恥ずかしくなってしまいますね」
笑顔のまま小十郎が来た道を向くと、『あれ』は物陰に隠れてしまった。
それも愛らしいと感じるのか、また微笑みを漏らしたような声が微かに聞こえる。
「お前を見つめているのではないぞ…」
念を押すように呟いた政宗の声に反応した小十郎はまた前を向き、承知しております、と言った。