「小、十郎か…」
「はい、私です」
生気のない、擦れた声で政宗は呟いた。
「――――――また、失ってしまった…」
「…………はい?」
『失う』とは何をだろう。
小十郎はその声に耳をそばたてる。
「あいつも、母上のように俺から去ってしまった…」
「それは………、ひすいさんですか?」
その名で切なくなったのか、政宗は依然として四つ這いの状態で畳の方を向く。
肯定も否定もしなかったが、その行為が肯定の意を示していた。
「あいつとは愛が確かめ合うことができた。そのためならこの身分を棄ててもよいと言った………が、ひすいに否定された」
彼女はそのために身を退いたのかもしれない。
それは賢明な判断だと、小十郎は納得する。
また『身分を棄てる』という言葉に反応したが、今はこのまま聞くことにした。
「人質に捕られた仲間を助けに行き、もう俺のところには来ないようだ」
「……………」
「何故………。―――――これが…?」
すると、政宗は右目につけられた眼帯を握り締めた。
「こいつが………!俺が隻眼であることが、人を寄せつけぬのかっ!」
叫ぶ政宗はまるで泣いているようにも見えた。