「え?」

「小澤さんは優しいです。その優しさが、水竜には肌で感じるように伝わってきたんじゃないかと思います。」


俯いてたはずの顔が上がり、彼女の目がいつの間にか俺の目を正面から真っすぐ見つめている。


「優しさは弱さを守ります。
戦えることだけが強さじゃない。
だから私は私の力を尽くせる部分で力を尽くし、小澤さんは小澤さんの出来ることをしましょう。
…心配して下さってありがとうございます。ですが…私は死んだりしません。
二人…で…ちゃんと帰りましょう。図書館に。」


『二人で』というところで少し口ごもった彼女が…なんだか妙に可愛い。
さっきから彼女の新しい表情にばかり出会う。
こうして知らない場所に落とされて、彼女と二人でいると見えてくるものが違う。


よく通ってる利用者、頭の良い女子高生。
俺の知ってる彼女はそんな上辺だけの存在だったということを知る。
近付けば近付くほど分かる。
彼女はそんな言葉で表せるような子じゃない。


話さなければ、利用者と図書館員の枠を越えなければ知ることのなかった彼女の顔。
それを見れたことが、今、なんとなく嬉しい。


「うん。やれること、やろう。
でも大きな怪我はしないようにね。」


俺はそう言って彼女の小さな頭に軽く手を乗せた。
一瞬首をすくめた彼女に少し怯んだけれど、頭を撫でても嫌がった素振りを見せなかった彼女を確認し、そのまましばらく手は止めなかった。