「あらぁ~相変わらずモテモテじゃない。」

「…黒瀬さん。」


黒瀬さんは美人で有名で、彼女目当てで図書館に通う人もいるらしいとか聞く。


「あの子、小澤くんが気になってるみたいだったわよー?」

「そんなそんな。相手は高校生ですよ?
向こうから見たら俺なんてオジサンですって。」

「そんなことないわよ。あの頃って先輩に憧れるもの。
先輩の延長線上、じゃない?」

「からかうのはよしてください。」

「あらつまんない。」


それだけ言い残すと、黒瀬さんはすっと持ち場に戻った。
…恋愛なんて、なんだかもううんざりだ。
そんな本音がふと頭の中をよぎる。


…っておい自分。
今は勤務中だ。そんなことに頭を揺さぶられている場合じゃない。


「小澤。」

「あ、はい。」

「オススメ図書のコーナーの整理整頓、頼んだ。」

「分かりました。」


…あのコーナーだけ、異様な人気だもんな。
そりゃ本棚も乱れる、か。


俺は例のコーナーに急いで向かった。