なつきは意識が無くなり、俺の腕の中で小さくなっていた。


アノ時も、こうだった。


なつみが亡くなった雨の降る、暗い日曜を思い出す。


何回何回も、悔やんでいた、あの日を。





俺は、日曜日になつみとデートを楽しんでいた。


「もうっ、優って本当に鈍いね」


「何が?」


「雨だから、相合傘したいのに」


「わりい、今から用事があるんだ」


帰りぎわに言った、


「なつみ、一人で帰れるか?」


この一言が、俺の間違いだった。


「子供じゃないし、一人で帰れるよ」


「ごめんな」


「いいよ。そのかわり、キスして」


「・・・人いるけど?」


「傘の中でしようよ」


俺は、傘を深めに下げ、なつみの肩を抱いた。


なつみの唇は、滑らかで、温かくて、俺の心に安らぎ与えてくれた。


「優、愛してるよ」


「俺も・・・愛してる」


なつみとの最後のキスだった。





なつみと別れ、しばらく、歩いていた。


街は、雨が降っているのに、賑やかだった。


時折、子供を連れた夫婦が歩いてるのが、目に止まった。


何年先かわからないけど、俺もなつみと結婚したい、そう思っていた。


携帯電話が鳴ったので、俺は傘の中で出た。


「なつき?」


なつきは電話の中で、黙っていた。


「どうしたんだよ?」


「なつみが・・・」


「なつみが、どうしたんだよ?」


「なつみが、車に跳ねられたの・・・」


雨の中、俺は街の雑踏の中で、一人、傘も差さずに、立っていた。街行く人が、楽しそうに、話していた。


それが、遠く感じ、別世界にいるみたいだった。


「・・・・・・何で、なつみなんだよ」


俺は、呟いた。声は雨音に飲み込まれ、消えた。