「なんだなんだ?」

「ギャバクラの近くで人が殺されたらしいよ」

「ああ、知ってる。殺したの、まだ高校生くらいの子供なんだってな」

「こっわー」

 人の口とは、時に風速を超える―――。

三十分もしないうちに、もう自分の話が広がってきていた。

少年はぎりりと奥歯をかみしめる。

どうにか、どうにかこの困窮を脱しなくてはならない。

 どこかへ逃げるか。

 それにしたって、この体中に付着した血液をどうにかせねば元も子もない。

 ボストンバックの中を探る。

見ればナイフのほかに服が一着、百万ばかりの札束が入っているではないか。

「よ、よしっ……」

 とりあえず服を着替えておこう。

 少年は行動に移しかけ、ふと、すぐ真横に目をやった。


―――人がいる。

 
 見ればまだ若い、二十代半ばと思われる。

長い茶髪を全て後ろに流し、その双眸は深夜でも妖しく爛々と光っていた。

しかし、中背で肌も赤く、あまりいい男ではない。

その上に奇妙な服装であった。

下駄を履いて、江戸時代の農民のような麻の着物を身に纏い、

その襟の狭間から腕を覗かせている。

 男はじいっと、少年を直視していた。

「な、なんだよ」

 弱々しく問う。

 男からの返事はない。

 ただただ眼だけが異様に光り続けているので、不気味である。

そして、

「あっ」

 少年は男が下駄を踏み鳴らし、


からんっ―――と、並々ならぬ高さまで跳躍したのを目の当たりにした。

 
 そして有無を言わさず。

 男は少年めがけて降り注いだ。